新米ママを苦しめる母乳神話

2022年4月19日

子育て

第1章 体重が増えない赤ちゃん

自分が母親になるまでは赤ちゃんが生まれたら母乳は勝手に出て、赤ちゃんも上手に飲んでくれるものだと思っていました。しかし、実際母乳育児が軌道にのるまでの約2ヶ月間は本当に大変な毎日でした。
長男を出産したのは今から4年前。自宅から車で15分ほどの食事が美味しいと評判の産婦人科での出産でした産後0日目から母子同室が始まり助産師による授乳指導が始まりました。なかなか上手く吸わせられず焦る気持ちが伝わるのか息子は泣いてしまい疲れて寝てしまいます。助産師に「飲みながら疲れて寝てしまうなら起こしてね」「とにかく吸わせることが大切」「左右10分ずつ、3時間おきに」と言われるがままその通りにしないといけないと思い出産の疲れもあってかなり参ってしまいました。出生時の体重より一時的に体重が減ることは知識としては知っていましたがその後どれくらいのペースで体重が増加するものかなんて知らなかったので、哺乳量なども全く気にしていなかったのですが、母乳の分泌も増えてきたのでどれくらい飲めているのか測ってみると授乳前後で1gも増えておらず、私が授乳していた20分間って何だったんだろう?と疑問を持つようになりました。その日から退院までの間に直接飲めていないみたいだからと搾乳をするように言われ20分の授乳後に搾乳したものを飲ませる、それでも足りない分はミルクを飲ませるように言われさらにオムツ替えや哺乳瓶や搾乳機の消毒などもあり1回の授乳に1時間以上もかかるようになりました。もちろん息子がすぐに寝るとは限らないので抱っこしてやっと寝てくれたとほっと一息ついた頃には前の授乳から3時間経っていました。体重の増えが良くなかったので寝ていても起こして授乳するように言われていたので日中は一緒に眠れなくてもしんどさはありませんでしたが夜すぐに寝てくれないことも多く一睡もできないまま次の授乳の時間になっているなんてこともありました。入院中くらい助産師さんに預けてゆっくり寝たいと思いましたが、母乳育児を推奨している病院だったようで「ゆっくり休みたいなら授乳に慣れなさい!」という雰囲気でだんだん退院後の生活が不安になっていきました。
待ちに待った退院の日心配していた体重も出生時と同じくらいに戻っており、母乳の後にミルクをあげる目安量も指導され夫と息子と3人での生活が始まりました。帰宅後もよく眠る息子を3時間経ったからと起こして授乳しますが眠いのか全然飲んでくれません。母乳はどんどん作られているようで腕も上げられないくらい胸が痛くなってきました。自分の体に何が起こっているのか分からず、スマホで色々と調べて見るのですが搾乳したらよい、搾りすぎるのはよくない、冷やしたらいい、シャワーで温めたらいい等書いていることがバラバラでどうしていいのか分かりませんでした。夫が慌てて搾乳機を買ってきてくれたので息子が寝ている間に搾乳し、授乳後に助産師に言われた量をミルクの代わりに飲ませるようにしました。
退院から1週間後には実家へ里帰りを予定していたので、それまでに体重がきっちり増えているか母乳はどれくらい飲めているか見てもらうために母乳外来に行くことにしました。すると息子の体重は退院時から全く増えていませんでした。毎日8時間以上授乳に時間をかけ、寒さと眠気を我慢して搾乳していた時間は無駄に思えました。それでも母乳がこれだけ出るのにミルクに変えたらもったいない、母乳で育てたくても出ない人もいるんだと言われ私の努力が足りないから息子の体重は増えないのかと落ち込みました。再度授乳方法の指導を受け、里帰り予定の日に体重を見てもらいギリギリながらも増えていたのでこれで2週間ゆっくりできるんだ、両親にとって初めての孫でもある息子が新生児のうちに会わせてあげられるんだとほっとしながら実家に帰りました。
入院中も自宅でもとにかくよく寝ていた息子でしたが環境の変化なのか実家に帰った途端にあまり寝ない子になってしまいました。両親は息子が泣くたびに「お腹がすいているんじゃないか?」「母乳が出ていないんじゃないか?」と言うだけで特に何かをしてくれるわけでもありません。早く泣き止ませなきゃ、どうして寝ないんだろう…と泣いたら授乳をするのですが、息子はなかなか泣き止まず泣き疲れて寝るようなこともありません。赤ちゃんってずっと寝ているものだと思っていたのにこんなに寝ないのは両親の言う通りお腹がすいているからなのかもしれないとどんどん不安が募っていきました。
今思えば親だから、育児の経験があるはずだから私よりも知識があるはずだという思い込みのせいで随分しんどい思いをしたように思います。母はミルク育児の経験しかないので母乳のようにどれくらい飲んだか悩んだ経験もなく、父は育児に無関心で母に任せっきりだったのでなんの知識もありません。おまけに「もうしんどいからミルクで育てようかな…」と言った私に対しても「母乳が出るのにミルクにする必要なんかない」と言ってくるのです。授乳を済ませ少し抱っこしていたら寝ると思うからとお願いしてお風呂に行くと息子の泣き声が聞こえてきます。ピタッと泣き声がやんだので寝かしつけてくれたんだなと思いリビングに様子を見に行くと「お腹すいて泣いているのが可哀想だったからミルク飲ませたよ」と言われました。息子が泣いていることに対して「泣いている=お腹がすいている」という考え方を押し付けられるような雰囲気の中で母乳育児を軌道にのせることは無理なのかもしれないと思うようになりました。
自宅で過ごしていた時の方が自分のペースで過ごせていたし、少しの間でも両親に孫と過ごす時間をプレゼントできたので予定より早く自宅に戻ることに決めました。
夫に迎えに来てもらい、2週間ぶりに自宅へ帰りました。ちょうど1か月検診の日だったので、心配だった息子の体重の増えも見てもらうことになりましたが、里帰り期間の2週間で1㎏も増えており、さすがに短期間で増えすぎだからミルクを足すのをやめるように言われました。やっぱりミルクのあげすぎだったのか、これで母乳だけでなんとかやっていけるのかと思いほっとしました。
それでもやっぱり母乳が足りているのか心配だったこともあり、ちょうど市の保健センターが行っている「新生児訪問」にまだ来てもらっていなかったので、体重測定もしてもらえてちょうどいいと思い、1か月検診の日から数日後に来てもらえるようにお願いしました。
心配していた通り、体重は増えるどころか少し減っていました。やはり母乳は足りていませんでした。搾乳すれば母乳は出ているので息子がまだまだ上手く咥えて飲むことが出来ないだけなので上達すれば母乳育児でやっていけるはずだという思いもありしんどさはあるものの後々のことを考えたら母乳のほうが楽だと思い諦めきれませんでした。保健師さんと授乳の方法についても相談し、母乳は吸う練習程度で搾乳メインで足りない分をミルクで補うというやり方でやってみることにしました。3時間おきにこだわるのもせっかく寝ている時はママも休んでいいんだよと言ってもらえたので、時間はあまり気にせず眠っている間は無理に起こさず起きたらしっかり飲んでもらうようにして体重のこともあまり気にせず1週間過ごしました。1度保健センターに来るように言われていたので行ってみると500g近く体重が増えていました。急にやめたらまた体重の増えが気になるかもしれないから少しずつミルクを減らしていくように言われたので少しずつ減らしていき、生後2か月を迎えるまでにはミルクを足すことも搾乳をすることもなくなりました。ずっと心配だった体重も1か月検診から約1㎏増えており、ミルクをやめてからもしっかり増えていることが分かりとても安心しました。
息子が生まれてから、母乳育児についてとても悩みたくさんの助産師、保健師の方に相談しましたが、人によって本当に言うことが違い、今思えばいろんな人に振り回されたと思いますが、「この人の言う通りにすればいい」という私自身の思い込みが一番いけなかったなあと思いました。

第2章 母乳育児じゃないと母親失格?

赤ちゃんを連れて歩いていると「可愛いね」「男の子?女の子?」「今何か月なの?」と話しかけられることがとても多いです。うんざりするくらい聞かれることが多いのが「母乳かミルクどっちなの?」という質問です。「どっちも飲んでいます」と言うと「母乳が一番いいのよ。今は昔と違ってミルクも良くなっているみたいね。私の時は…」と言われ、「母乳です」と答えると母乳のすばらしさを延々と聞かされるのです。
そもそも初対面で母乳かミルクか聞くこと自体がとても失礼だと思います。私自身出産した産院からも母乳育児が一番いいと指導を受けていて母乳もよくでるほうだったこともあり、軌道に乗るまではミルクを飲ませることに少し抵抗があり、ました。そのこともあって、見ず知らずの人の声もいちいち真に受けてしまい、母乳が出るのにミルクを飲ませている私は赤ちゃんに悪いことをしている、間違ったことをしていると言われているような気がしてとても嫌な思いをしました。だから余計に母乳を飲ませることにこだわり、寝る時間を削ってでも搾乳して出来るだけ母乳を飲ませるようにしていましたが、毎日本当にしんどかったです。こんな風に苦しい思いをする人もいるし、私のようにミルクに対して後ろめたさを感じさせられる人もいると思うのでどうしてこういった質問をするのか意図が全く理解できません。
はっきりとは言われませんが、「母乳で育てないなんて母親失格だ」「ミルクをあげるのは手を抜いている、愛情不足だ」とでも言いたげです。母親が毎日行う赤ちゃんのお世話は何も授乳だけではありません。静かに眠っている姿を見ながらも息をしているか心配になったり、部屋は暑くないか、寒くないか気にしたり、泣くたびにどうして泣いているのか理由を探したりと毎日赤ちゃんのために一生懸命頑張っているのです。母乳かどうかという質問でその人の母親としての何を図っているのか本当に理解できませんでした。
また、母乳だけでは体重の増え方が悪い、母乳の出が悪い、哺乳瓶にもなれていてほしい、持病があるなどそれぞれの事情があって、色々と悩んで最適な方法を見つけて子育てをしているのに何も事情を知らない人が「これが一番!」なんて軽々しく口にするのはよくないと思います。初めての育児の時に子育ての経験者に言われると変に説得力があるというか私よりは育児に詳しい人がそういうならそうなのかもしれないと思ってしまうものです。私は結果的に3人の子どもを母乳で育てていますが、初めから母乳だけで育ったのは2人目だけで、他の2人はそれぞれ背景は全く違いましたが生後1~2か月は母乳とミルクと混合でした。泣いたらすぐに飲ませてあげられるし、上の子がいる中での育児なので調乳の手間がないのはとても楽だと思いますが、ミルク育児だったら、夫に夜中のお世話をお願いできたかなとか、育休をとってもらい夜間授乳を当番制にすることもできたかもしれないと育児の一番大変でしんどい時期を夫婦で共有できたのではないか、もっと産後のぼろぼろの身体を休ませることができたのではないかと感じました。
離乳食を食べるようになる頃には不思議と聞かれることもなくなるこの嫌な質問ですが、例えるなら下着の色を聞くのと同じくらい失礼でセクハラのようなものだと思っています。毎日寝不足で頑張っているお母さんに対してこういった質問をするのはマナー違反です。
私は自分自身がとても嫌な思いをしたので、ミルク育児に対して後ろめたさを感じている友人や、同じようにこの質問に嫌な思いをしている友人に「大人だって朝はご飯派とパン派があるように赤ちゃんにも母乳派、ミルク派があってもいいんだよ。どっちがよくてどっちが悪いなんてないんだよ」と伝えるようにしています。無責任にどちらがよくてどちらが悪いと言って不快な思いをさせるよりも誰も嫌な思いをしない答えだと思うので、こういう考えがもっと広まればいいのにと思います。
私がこういう風に考えられるようになったのは3人目を出産した病院の授乳指導のおかげでした。上の子2人を出産した病院がお産の取り扱いがなくなった為転院することになったのですが、基本的に母子別室で産後の母体の回復を優先している病院だったため、熱心に母乳育児をすすめてくることもありませんでした。もちろん3人目だったこともあって「上の子も母乳だったなら今回も母乳で大丈夫かな?」くらいの軽い雰囲気で、昼間は赤ちゃんが泣くと授乳室に呼ばれ5分ほど経つと「まだ産後まもないのに授乳に時間をかけていたらしんどいよ」とミルクを作って持ってきてくれるのです。あくまで赤ちゃんのお腹を満たす時間という感じで母乳が出る、出ないは関係なくとりあえず出るかもしれないから飲ませてみよう、出なかったらミルク飲ませようという方針に初めはとても戸惑いましたが、無理せずこれでいいんだととても気持ちが軽くなりました。1人目の時はとにかく母乳を何時間でも吸わせないと出ない!といわれていたのでミルクを足すこともダメなことなのかと思っていたのですが、1人目もこの病院で出産していたらもっと楽な気持ちで育児を楽しめたのかなあと思いました。面会も禁止だったためとても退屈な入院生活でしたが、子どもが生まれてから何年振りかというくらいたくさん寝てゆっくり休むことができました。母乳は飲む練習程度でしっかりミルクを飲ませるようにしていたら体重もしっかり増えて、少しずつミルクの量を減らしていってもその分母乳を飲むようになってくれたので1か月検診の頃にはミルクは全く飲まなくなり自然と母乳育児になりました。
もちろん1人目より2人目、3人目の方が初めてが少ないので気持ちに余裕ができたので、育児に対してもこの人が言うやり方が正しいとかネットにこう書いてあるからこうした方がいいという考えではなく、今までの経験を活かしつつ分からないことに対しても自分が少しでも楽ができる方法を自分で選んで行動できるようになりました。
さすがに3人目ともなるとあまりアドバイス的なことを言われる機会はなくなり、「3人いると大変でしょ?」と労いの言葉が多くなりましたが、1人目を生んだ時も同じように「初めてだから慣れるまで大変だね」などシンプルな言葉をかけてもらえたらもっと気楽に過ごせていたように思ったので、自分の兄弟や友人、子どもたちが親になった時にはこの気持ちを忘れずに言葉を選んで声をかけたいと思っています。
母乳育児は赤ちゃんが生まれたからすぐに母乳が出るとも限りませんし、赤ちゃんが初めから上手に飲んでくれるわけでもありません。乳首が切れたり、胸がガチガチに張ったりと痛い思いをすることもあります。その痛みに耐えて母乳を与えることはもちろん「母親の愛情」だと思います。しかし、それだけが愛情ではないとも思います。あまりに痛すぎて耐えられない、母乳が出ない、赤ちゃんの体重が増えないなどの理由でミルク育児を選んだお母さんに愛情がないということにはなりません。赤ちゃんの成長のためにしっかり栄養を与えようとしています。食事を用意する、服を洗濯して着せてあげる、オムツを替えてあげる、抱っこするなど赤ちゃんのためにすること全て愛情のこもった行動だと思います。母乳は母親に限定されますがミルクの方が哺乳瓶の消毒やミルクの量、温度など気にする必要があり、手間も時間もかかるので決して楽をしているわけではないのです。
育児に関してだけではなく、初めてのことに対しては経験や知識のある人の言うことが正しいと思ってしまいますが、赤ちゃんにも性格や個性はあるのでみんな同じようにはいかないのが当たり前です。育児本やネットなどで知識を得ることも大切ですが、あまり人の意見に流されず、まずは目の前の赤ちゃんをよく見てどうしたらいいのか考えることが大切だと思います。

第3章赤ちゃんは可愛いけど怖い

赤ちゃんは小さくて何をしても可愛い。小さな体を真っ赤にしてなく姿も指でちょこんと触るとぎゅっと握ってくれる小さな手も、自分のくしゃみにびっくりして泣いてしまう姿もただただ可愛くて愛おしいです。そんな可愛い赤ちゃんですが、育児に自信が持てなかった時期の私にとっては少し怖い存在でもありました。
新生児期の日中はほとんど泣いてばかりいた長男。生後1か月を過ぎると眠くなったのかなという時に少しぐずぐず言うくらいで夕方になっても「今日まだ泣き声を聞いていないな…」なんて思うことも少なくありませんでした。あんなに「どうして泣いているの?」と心配なくらい泣いていた子が全然泣かなくなったのですから、私は息子が泣かないことに対しても「赤ちゃんは泣くのが普通なのに泣かないなんてどこかおかしいのではないか」と心配になるのです。それでも毎日一緒に過ごして息子の様子は誰よりも分かっているのできっと泣く前にお腹もいっぱいになっていて、オムツもきれいになっていて、部屋も過ごしやすいんだろうなと泣かなくても息子のしてほしいことに私が気付いてあげられているから大丈夫と自分で納得していました。言葉は私からの一方通行ですが息子も笑顔で答えてくれるようになり少しずつ育児に慣れてきていると私にも自信がついてきました。
そんな中で市の4か月検診に行った時に保健師の方とお話をしていた時のことです。特に育児について悩みはなかったのですが「何もないはずはない、毎日赤ちゃんと過ごしていたら何か気になることがあるでしょ?」とかなり強引に言われたため「あまり泣かないのが少し気になります」と話しました。すると「待ってました!」というくらいの勢いで「赤ちゃんは泣くことでお母さんに要求を伝えるの、泣かないということはお母さんとの愛着形成がうまくいっていない証拠です。」「なにか発達に問題があるのかもしれないね。」と言われました。今日初めて会った人に無理やり悩みはないか、気になることはないか、ないなんておかしいと言われたからなんとか絞り出して答えたら発達障害だ、あなたの育児はうまくいっていないと決めつけられてしまったのです。検診の目的は母子の関係はうまくいっているか、子どもの発達は順調かなどを把握して虐待防止や専門機関への橋渡しなどをすることだと思っているのですが、こんなに不快な思いをさせられるなんて思ってもいなかったのでかなり驚きました。保健師の方は他にも何人かいて、今回お話しした方はかなりご年配の方だったので主観というか少し考えが古いのかとも思いましたが、話す人によっていうことが異なるならこんな風にわざわざ育児相談の時間を設けず希望者だけにするものとか普段どんなふうに過ごしているか話し相手になる程度にとどめてほしいと思いました。
赤ちゃんがずっと泣いていたら「母親なんだからなんで泣いているのかわかるでしょ?」と分からないのは母親としてだめだとでも言うように言われ、赤ちゃんが全然泣かなくても「母親との愛着形成がうまくいっていない」なんて言われてしまい、にこにこ笑顔の可愛い息子でしたがこんな風に何も知らない人にいちいち嫌味のように評価されるので少し怖いなと思ってしまいました。普段から家事や育児をこなしていることに対してだれからも褒められることもなく何が正解か模索しながら育児に奮闘している母親に「それでいいんだよ、いつも頑張っているね」と寄り添った声掛けをしてもらえたらと思いました。
これ以外にも息子の様子をみて周りの人から色々と言われる中で一番嫌だったのは「やりやすい子(育てやすい子)で良かったね」という言葉でした。人見知りもほとんどなく、いつでもどこでもにこにこ愛想の良い子で、義母や実母、児童館で会う他の子のお母さん達からの息子の評価は「やりやすい子(育てやすい子)」でした。
みんなそれぞれ自分の子どもと比べての発言なのかもしれませんが、私は毎日ああでもない、こうでもないとすべてが手探りの状態で過ごしていました。もちろん1日何をやっても息子が泣き止まず、息子をしながらなんで泣き止まないの?と一緒に泣いたことだって何度もあります。外で少し愛想が良いだけで「育てやすい子」なんて言われたら普段私は楽できていいねと言われているような、いつも息子のためにと頑張っていることを全て否定されているような気持ちになります。もちろんそんなつもりで言っている人はいないと思いますが私だってそれなりに色々と悩みながら育児をしているので決して楽なんてしていないし、誰かと比べて育児をしているわけではないので「やりやすい子」という言い方はどうしても納得できませんでした。
私自身姉妹の末っ子で、幼い時から妹や弟が欲しかったこともあり、自分より年下の従兄弟や友人の妹や弟と遊ぶことが大好きでした。赤ちゃんや小さい子どもが好きだというのは大人になっても変わらず、いつか自分に子どもが欲しいとずっと思っていました。念願かなって親になることが出来たのですが昔から思い描いていた「赤ちゃんって可愛い」というイメージと実際の赤ちゃんとの生活にはかなりのギャップがありました。
親戚の子や友人の子と遊ぶといっても1日のうちの何時間か一緒にいるだけで、妊娠中の不自由さや出産や産後の赤ちゃんとの生活の大変さなど何も分かっていなかったのです。妊娠中には夜寝苦しかったり、足がむくんだり、気持ちが沈んだり肉体的にも体力的にもつらいことが多くありました。出産の時も陣痛の痛みが想像以上で本当につらかったですが、これを乗り越えたら赤ちゃんに会えるという気持ちでなんとか頑張れました。1人目を出産した時にすぐに思ったことが「この痛みを知っているのに2度目の出産で私を産んでくれた母はすごい」と言うことでした。それくらいもう二度と味わいたくない痛さだったのです。
赤ちゃんとの生活もこんなに夜眠れないと思っていなかった、生まれたらすぐに母乳が出て飲めるものだと思っていた、首がぐらぐらしているなんて知らなかったととにかく一緒に生活してみないと分からないことばかりでした。しかし、知らなかったことはしんどい・つらいことばかりではありませんでした。寝ている赤ちゃんの手がバンザイしているところ、息をするたびにお腹がぺこぺこするところ、泣くと全身真っ赤になるところ、生まれて1か月は肌がかさかさしているところ、小さな手足にも可愛い爪があるところ見ているだけで幸せな気持ちをたくさん与えてくれました。大人になるまでに妊娠中や産前産後のつらさを知っていたら子どもが欲しいと思えなかったかもしれないと思いました。そうなっていたら産んで初めて知った赤ちゃんの可愛さを知ることもなかったのかと思うと知らなくてよかったとも思いました。「にこにこ可愛い子どもがいるお母さん」に憧れていた昔の私は、今の私に対して「やりやすい子だね」と言ってくる人と同じでお母さんの大変さやつらさなど見えていない部分を理解できていなかったんだと思いました。
実際に出産・育児を経験して見えていなかった部分を少しずつ理解した後も2度妊娠、出産をすることとなり現在では3人の子どもを育てています。自分がかけてほしかった言葉、言われて嫌だった言葉、うれしかった言葉がたくさんあるので子どもたちの可愛い成長とともに忘れずに過ごしたいと思います。もちろん育児以外のことにも言えることですが、周りの人の見えている部分に対してだけではなく、その時一番必要な言葉をたくさんかけてあげられる人になりたいし、自分の子どもたちにもそうなってほしいと思いました。

第4章 正解は私と赤ちゃんにしか分からない

赤ちゃんを連れて出かけていると自然と知り合いが増えます。児童館や子育てサークル、定期検診など自分から出向く場所では同じように子育て中のお母さんとの出会いが多くあります。子ども同士の月齢も近く育児中の悩みや解決策を共有したり、日頃の愚痴を言いあったりと助かることが多いです。こういった出会いは子育てをしていく上でプラスになると思うのですが、少し困った出会いも増えます。
妊娠中には全くなかったのに、赤ちゃんを抱っこして買い物や散歩をしていると「可愛いね、何か月?」と声をかけられる機会がとても多いです。声をかけてくるのは私の親世代で同じくらいのお孫さんがいるような方からご高齢の方がほとんどです。自分の子どもなので「可愛いね」と言われるだけなら嬉しいなで済むのですが中にはできれば関わりたくないなと思うような方もいます。なかでも一番困ったのはスーパーの駐車場で車に乗ろうとしたときに声をかけられ、「子育て中の悩みをお話しするようなおはなし会をやっているのできませんか?」と言われたことでした。早く帰りたいのに「1人目だと分からないことばかりでしょ?」「ためになる話が聞けるから」と連絡先を聞くまでは帰らせないというくらいの強引さで押されてしまい、一度くらい行って様子だけ見てみようかなと行ってみることにしました。長男が4か月くらいの時のことでした。着いてすぐにこの前連絡先を交換した方とは別の人が案内してくださったのですが、託児の有無を聞かれました。夫や両親以外の人に預けるのはちょっと…と断り、赤ちゃんを連れてならこちらへと案内された部屋には10組ほどの親子と託児を担当している女性が10人くらいいました。年齢を聞かれ、この人が一番年齢が近いから何でも相談するといいよと悩んでいることはないかなど根掘り葉掘り聞かれます。専門家でもなさそうな方に初対面で話したいような悩みはなかったのですが、夫の両親と同じ敷地内に住んでいると言うと「今はうまくいっているかもしれないけどこれからどうなるかわからない」「同じような人がいたけどうまくいかなくなって他所に引っ越したのよ」など不安をあおるようなことばかり言ってくるのです。悩みを相談する場だと聞いていたのに少し宗教じみているような雰囲気に何を言われても不信感を感じるようになりました。結局どういう団体なのかもよく分からず怪しさしか感じられない集まりだったのでそれ以降の誘いはすべて断り、同じ集まりの方なのかどうかは分かりませんが家に勧誘に来られたり、街中で声をかけられたりしても忙しいのでと断るようになりました。勧誘に来る方が共通してみんな同じ誘い文句で「とてもタメになる」「これからの育児に役に立つ」「あなたの考え方も変わって夫婦の仲もよくなる」と言ってくるので何かの宗教なのではないかと「どういった団体ですか?」と聞くと決まってみなさん言葉をにごすので胡散臭いなと感じました。声をかけてくる方が絶対宗教がらみの怪しい人というわけではありませんが、なかには育児で孤立しがちな主婦を狙って付け込もうとしている人もいると思うので全て断るようにしています。
どこの誰だか分からない人に「私の子どもはこうだった、こういうときはこうしたらいい」なんて言われてその通りにすれば上手くいくほど育児が簡単ではないことくらい十分わかっています。長男の育児中は何をするにも初めてで、何が正しい、何が間違いなのかを判断することさえ難しくていつもこれでいいのかと悩んでいました。インターネットであれこれ検索しては見るサイトにより書いてあることが異なっておりさらに混乱することも多かったです。生後間もないころは母乳が足りているのかで悩み、離乳食が始まるとこんなに食べても大丈夫?と問題なく食べてくれているのに悩んでいました。反対に全く食べなくても悩んでいたんだろうと思います。どうしても困ったときは市の保健センターに出向いて話をするのはこの人という人を決めて相談することにしました。人が変わると意見も変わるのでいい面も悪い面もあるとは思いますが、私は一番最初に授乳でつまずいた時に相談
ることも大切だけど、赤ちゃんと毎日一緒に過ごすママがやりやすいようにするのが一番いいんだよ」と言ってくれました。私がしてきたことを認めてもらえたととても嬉しかったのと同時に赤ちゃんのためにではなくて私がやりやすいようにするのがいいんだと気づかせてもらえました。一般的にするアドバイスと私がどう思っているのかというのを聞いたうえでのアドバイス両方をしてくださるので、この方に相談するのが一番信頼できると思いました。
2人目、3人目と同じようにはいかないことばかりですが、それぞれの性格や個性もあるのだから当たり前だということが経験を積むごとに理解できてきたように思います。1人目の時は何をするにも悩んでいて、少し神経質だったと思います。その時間がもったいなかった、もっと育児を楽しめていたらと思うこともありますが、その経験がなければ今こんなに寛容に子育てを出来ていないと思います。3人子育てをしていてひとりひとりに構ってあげられる時間にも限りがあるので、上の子は寂しい思いをしているかもしれませんし、1人しか子どもがいなかったらこんなにわがままも言わなかったかもしれないと思うことももちろんあります。それでも、限られているなりにその子その子の好きなもの好きなことをしっかりと把握しています。ずっとべったりしていること方がいいという子もいるのかもしれませんが、そうでないことくらい毎日過ごしていればよく分かっているので、「抱っこして」「これ見て!」と子どもの方から言っていた時には手を止めて、すぐに手を離せないときは少し待っていてもらっても応じるようにしています。長男も長女も自分のしてほしいこと、してほしくないことを言葉で表してくれるようになってくれたのでとても助かります。次女はまだまだお喋りするようになるには程遠いですが、上の子たちにしてきたように接していれば自然と同じようになるのかなと思っています。
子どもと接するのにこうするのがいいとかこうした方がいいとか世の中にはたくさんの説があると思うのですが、私は3人の育児をしていて思うのは子どもに対して毎日何かをするのもその反応をみるのも私自身なので結局正解かどうかを決めるのは私と私の子ども達なのかなと日々感じています。もちろん育児に関してアドバイスされることはとてもありがたいことだと思いますし、困った時にふと思い出して試してみることもあります。それでもやっぱり我が子にあったアレンジ力が必要になる場面の方が多いので私はいつも子どやって良かったと思わせてもらえる達成感があるので育児って面白いなと思います。
まだまだ頂上は程遠い私の子育てですが、ある程度の「1番大変な時」は乗り越えてきたように思います。慣れない育児はもちろんですが兄妹が出来てキャパオーバーにもなり、精神的にもしんどかった時期もありました。仕事と家事育児の両立の大変さも十分わかっています。自分の身近な友人や兄弟、そしていつか自分の子ども達が親になった時に「こんな時どうしてた?」「こんなことで悩んでいるの」と相談されることがあれば自分がされて嫌だと思ったことはしない、言わないように気を付けた上で「私はこうだったよ」と覚えていることを伝えるようにしたいです。私の子育ては母乳育児でなんとか3人やっていけたけれどたまたまそうだっただけでもし4人目がいたらその子は全く母乳が出ない、飲まないこともあると思います。それでもその子が大きくなるためにはミルクを飲ませてあげることが一番大切だと思うので、お母さんが赤ちゃんと過ごしている中でこうした方がいいと感じてやっていることが子どもを育てていく中で一番正解に近いのではないかと思います。子どもに対して申し訳なさ、後ろめたさを感じて接すると子どもも「悪いことをされている」「嫌なことをされている」と感じると思うので、不安があれば信頼できる人に相談して「これでいいんだ」と自信をもって前向きな気持ちで育児をしていくことが一番だと思いました。母乳育児が絶対にいいという考えの方も一定数いるとは思いますが、それが正しいかどうかを決めるのは他の誰でもなく赤ちゃんとお母さんだけだと思います。

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