育児書を読みすぎて疲れてしまったら~お母さんの笑顔は子どもを幸せにする~

2021年10月26日

子育て

育児に疲れたら目的地をもう一度見直してみよう

みなさんは今、笑顔で子育てしていますか?
自分の子育てに満足していますか?
イライラして家族に不機嫌な感情をぶつけていませんか?
子どもに優しくできない自分に罪悪感を持っていませんか?

 かつての私は、自分が理想とする人間像に必要と思えるものを子どもに与えたいと望み、毎日奮起するうちにヘトヘトになった経験があります。毎日イライラし、家族に不機嫌をまきちらかすようになっていました。子どもの純粋な笑顔を見て優しくふるまえない自分に罪悪感をもち、趣味なのかと思うくらいネガティブな気持ちをかき集めていました。
 当時の自分を思い返すと、そんな私を子どもたちはいつでも好きでいてくれたことに感謝しかありません。

 なぜそんなにヘトヘトになったのか。インターネットや育児書で有益な情報がいくらでも簡単に得ることができる便利さに振りまわされてしまっていたからです。
 幸せな子育てをしたくて読んでいたはずが、いつしか理想どおりすすまない、できない自分にフォーカスしていくようになっていたのです。この先、あと何年この苦しさを味わいながら子育てしていくのかと思うと何とかこの苦しさから抜け出す方法はないのかと自分自身の在り方に気持ちを向けるようになりました。

 こんな過去をもつ私ですが、頑張る方向性が間違っているのではないかと気づき、子育ての目的地を見直し、子どもたちとのかかわりかたの視点をかえたことで、心がゆるみ、笑顔がたくさんの毎日を過ごせるようになりました。子どもたちは安心・安全の中、自分たちの道をつかみとろうと自発的に頑張るようになり、そんな姿をみて応援するスタンスで過ごせる今の自分が気に入っています。

 現在、私は、子育てをしながら、子育て支援員として働いています。自分の子育て環境の中で出会うママ友だちとの会話、幼稚園や学校の懇談会などで議題にあがってくるトピック、子育て支援員として働く現場での保護者との会話から多くのお母さんがより良い子育てを望むがゆえに頑張りすぎ、かつての私のように疲れているのを感じることが多くあります。
そんな頑張るお母さんたちを心の中でハグしてあげたくなります。かつての私が一杯経験してきた気持ちだからです。

 今もまだ子育て真っ最中なので、毎日いろいろなことが発生します。しかし、子育ての目的をはっきりさせることで、膨大な情報や周りとの比較から開放され、心を楽にすることができ、省エネモードで子どもたちとの時間を過ごせています。本当に心が楽になりました。

なぜ目的が必要なのか?

 みなさんはご自分の子育ての目的って明確にできていますか?なんとなく日々、目の前のことに一杯一杯になりながら子育てしていませんか?過去の私は毎日のタスクをどうやってこなしていくかしか考えていなく、子育ての目的を明確に意識したことはありませんでした。

 結論からいえば目的を明確にすることをおすすめします。やるべきことが明確になり無駄なエネルギーを出さなくてすむからです。先にも書きましたがインターネットや子育て本でたくさんの情報があふれている時代です。便利ですがしっかり自分の子育ての目的を定めないと、膨大な情報量の中をさまよう事になってしまいます。方位磁石をもたないで森林の中をさまよっている状態です。目的にそった指針を持って行動することで、目の前のことだけに一喜一憂されにくくなります。
 また自分で目的を理解し、定めることで頑張ろうと決めたことであれば、たとえうまくいかない日があっても明るい未来への努力になり自分自身に成長というご褒美がかえってきます。

どんな子どもに育って欲しい?

 理想の子ども像は人によっていろいろなイメージがあると思います。みなさんはどのような子どもに育って欲しいと期待しているでしょうか。

・健康でいて欲しい
・友だちと仲良くできる子でいて欲しい
・明るくて礼儀正しい子になって欲しい
・ルールを守れる子になって欲しい
・勉強やスポーツができる子になって欲しい
・優しくて強い心を持てる子になって欲しい

など、我が子を愛するがゆえにいろいろな期待がでてくるのではないでしょうか。ちなみにこちらであげた期待は、理想の子育てに鼻息荒くして頑張っていたころの私の期待です。

では、なぜそうなって欲しいと思ったのか。

「そうなることで、子どもが幸せになれると思ったから」です。

みなさんもご自分の経験から理想とする人間像を思い描き、我が子にはそのように育って幸せになって欲しいという期待は多かれ少なかれ持っているのではないでしょうか。

 しかし、自分の期待にそった子どもを育てることを目的地にすると、子どもをコントロールするような行動につながりやすくなります。例えば、子ども自身がのり気でない習い事をさせたり、人見知りであることを危惧して今の状況を何とか克服させようとしたり、お友達と仲良く遊べないことを不安に思い「お友達と遊びなさい」と言う。
親の不安や怖れから促される行動は、子どもには「愛されている」と伝わりづらいものです。

子どもたちの未来を見据えて「育(はぐく)みたい力」をつけることを目的地にする

 これからはどんどんAIの時代になっていきます。2030年には今ある職業の半分はなくなると言われています。また環境問題や自然災害や紛争、近年のウイルスの発生などさまざまな問題が次々とおこっています。これまでの経験だけでは解決できなく、新たに知恵をだしあい、新しい解決の方法を考えて行かなければならない場面が増えてきています。
 このような時代に豊かに生きていく知識を得て工夫をこらし暮らしていける力をつけていくことが必要となってくるのではないでしょうか。複雑で様々な課題を解決する力が必要になってきます。
現在、教育の世界でもこれからの時代を生き抜く力として、以下の力をつけることが大切だとさかんに言われています。

①主体性(内発的なモチベーションや自己決定)
・主体的に参加する力
・自ら判断し行動する力
②共同性(豊かな人間性・多様性を受け入れる力)
・仲間と協力する力
・コミュニケーションの力

 これからの時代に子どもたちが幸せに生きるために「育(はぐく)みたい力」は、自己決定や人間関係などを大切にすることに価値をおき、多様性を受け入れることができ、回復力やしなやかさ(レジリエンス)を持てる人間になる力ということなのでしょう。

 つまり、私たち親が目的にするべきことは、このような力を持てる礎を築く環境をつくることです。安心・安全の環境の中で生きる力を身につけた子どもたちが、自分の人生を選んですすめるようにかかわり続けたいと思う親で在り続けることだと私は考えています。子どもの欠点を見つけ、なんとか改善しようとコントロールすることではありません。子ども自身が問題に気がつき、なんとかしたいと思った時に、自らの力で解決しようとする力をつけられるように関わり続けることなのだと私は思います。
 「なんとかしようとしなくていい」のだと気づけるだけで心はずいぶんと楽になるのではないでしょうか。

育児書どおりにできるお母さんではなく、子どもの「心もち」への共感ができるお母さんになろう

前章では未来に生きる力の礎を育(はぐく)むことを目的地にすることを述べてきました。
 ではどのようなかかわりかたをすることが、この目的を達成する行動になるのでしょうか。もう1度、どんな力を育(はぐく)みたいと思ったのか記しておきます。

自己決定(主体性)や人間関係などを大切にする(共同性)ことに価値を置き、多様性を受け入れることができ、回復力やしなやかさ(レジリエンス)をもてる人間になる力

私は、我が子がこんな風に育って未来を笑顔で生きている姿を何度も思い浮かべました。

※どんなかかわり方をする人が側にいるといいの?

 結論からいうと

心は叱咤激励では育ちにくい。
温かく、受容的、応答的に関わる人が周りにいることが大切。

と言うことを保育の研修で学びました。

 例えば小さい子どもは自分の気持ちを言葉でうまく表現できないので、泣いて表現することって多いですよね。何かしらの理由があって泣いた時に

□泣き止ませようとする人が側にいるのか。
□泣いている気持ちをわかろうとする人が側にいるのか。

 子どもが自分の気持ちを表現した時に、どんなかかわり方をされてきたのか?が強い心の育ちの形成には大切になってきます。

※泣きやませることが目的になっていませんか?

 買い物の最中に我が子が泣いて動こうとしないという場面に遭遇したとき、みなさんはどのような声かけをしていますか?

「いつまでも泣いていたってしょうがないでしょう。早くおうちに帰って遊ぼう」

なんて言葉を発してしまうこともあるのではないでしょうか。

世の中のお母さんたちは忙しいのです。毎日やることがたくさん!
やっても次々と現れるタスクに追われる中で、私は何度もその言葉を使ってしまった記憶があります。「もう、お母さんのほうが泣きたいくらいよ(怒り)」と思って、何とか泣きやませるために気をそらせてその場を必死におさめようとすることにかなりのエネルギーを消耗させていました。
 この時の目的は「なんとか泣きやませる」です。大人からみれば、「いつまでも泣いていたって解決しないじゃない」と思うのです。
思ったとおりに行動して欲しくてコントロールしようとする声かけでもありますが、子どもの笑顔がみたくて、笑顔になって欲しいという願いも含まれているのだと思います。明るい気持ちにむくように声かけをしていくというのはとても大切だと思います。
 でもここで、もう「ひと手間」かけてみる。お母さん自身も一呼吸おいてみて下さい。
もしかしたらわがままで泣いているように思える子どもの心の中に本当はもっとわかってもらいたかった気持ちがあったのではないでしょうか?

 小さいころの自分のことを思い出して見てください。「わかって欲しかった」という思い心の中に押し込められていませんか?

「泣いている気持ちをわかろうとする人」はどんな行動を選択するのか。

 ではこの「ひと手間」とはなんでしょうか。
泣いて動かなくなった子どもの気持ちをわかろうとする想いを表現することです。
「今は悲しくて動けないのだね。じゃあここに一緒にいようか」と、その子が自分から立ち上がるのを信じて一緒に待ってあげます。

子どもはお母さんの安心・安全の寄り添いの気持ちの中から、少しずつ自分で気持ちを整理し、次に向かう力を養っていくのです。自らの力で、もう泣くことをやめようと思えるようになるのです。

 「待つ」って忙しい日々の中ではとても難しいことです。「待つ」というのは人間のみができる行動とも言われています。
 でもここはお母さんの腹のくくりどころです。大人ができることは、待てる余裕をあらかじめ作るようにすることです。子どもを無理やり動かすことではありません。
「どんな力を育(はぐく)みたいのか」と常に自分に問いかけてみて下さい。
 子どもはそんなかかわりをしてくれた人を見て、自分も周りの人に同じようなかかわりをするようになります。
 心理学的に、自立した人とは、
自分で考えたり、工夫したり、他者に助けを求めることができる人が本当の(レジリエンス逆境から立ち直る力)な人としています。
「困った時には言ってね」という人が側にいれば、自ら沸き上がる意欲をもって立ち上がっていくのです。

「なんとかしよう」ではなく、「温かく、受容的、応答的に関わる」行動を選んでみると今までとは違う子どもの心の中の景色にふれることができるようになります。

子どもと一緒に自分の成長も楽しむ気持ちでかかわろう

 ただし、一足飛びにはこのようなかかわりはできないものだと思います。一気に完ぺきな姿を目指せば、かつての私のようにできないことにフォーカスをして苦しい世界に逆戻りです。毎日、少しずつでも意識してかかわり、失敗と成功と繰り返しながら、子どもと一緒に成長していけばよいのではないのでしょうか。
 子どもが安心・安全を感じられるお母さんは、育児書どおりに完ぺきにできるお母さんではなく、できなかった時の悔しさや悲しみ、できた時の喜びを共感してくれるお母さんなのだと思います。そんな安心感の中で子どもは勇気をもって挑戦していく力を得るのではないでしょうか。

自分自身の心もちも大切にしよう

 ところで、みなさんはご自分の心もちには寄り添えていますか?みなさんの身体の中にある愛のタンクには今、どのくらいの「愛」が入っていますか?溢れ出すくらい入っていますか?それとも、もう底をつきそうでしょうか?
 ここまで読んできて「頭ではわかっているけれども、できない」って思っている方もいらっしゃると思います。
 もしかしたら、お母さん自身のタンクの中の愛が少なくなっている状態なのかもしれません。愛あふれる子育てをしたいと願って、自分の残り少ない愛をふりしぼって愛を出しても長くは続きません。いつか自爆してしまいますよね。そうならないためにも、どうか自分自身の心もちに寄り添ってあげて下さい。毎日、家族に全力を注いでいるお母さんはどうしても、自分のことは後回しになりがちです。旅行にいくとか外食するとかもよいのですが、意外とちょっとしたことで満たされるものです。
 以前、私は子どもたちがまだ乳幼児だったころ、お風呂上りは、子どもたちがふいた後の湿ったバスタオルで自分の身体を拭いていました。しかし、実はそれは嫌だったのだという自分の本心に気がつきました。自分のために洗いたてのバスタオルを出してふいただけで、すごく幸せな気持ちになったことを覚えています。
 自分の本当の心の望みと違うことをやっていることが、習慣化していることって結構あるのではないでしょうか。毎日まずは、自分の望みを感じ取って寄り添ってみて下さい。子どもと向き合うのはその後です。
 自己犠牲の上で苦しい顔をして一生懸命つくしてくれるお母さんを見ると子どもは自然と笑顔が減ってくるものです。心からの笑顔がたくさん出ることをみつけていきたいものです。お母さんが笑顔でいれば、子どもはきっと「なにがあっても大丈夫」なのだと自分の体験を通して思っています。

毎日子育ての実験を楽しもう

私が仕事やプライベートで、子育てをされているお母さん方のお話を伺う中で
「毎日イライラしたくないのにどうしてもイライラしてしまう。」
「他の子はもうこんなことができるのに、自分の子はまだできないから心配。」
「言っても聞かないから困っている。」
などというお母さん自身がつらくなってしまっている方々にお会いします。
お母さんが子どもの行動に振り回されてしまっているのです。

 私は、子育ては「毎日の実験の積み重ね」だと思うようにしています。失敗が10回あって1回成功するかどうか。「1回試行してやってみたけれども、だめだった」ではないのです。毎日、子どもにかかわり続けながら浮かんだアイデアを実践したり、うまくいかなかったのであればアレンジしたり、工夫してみるという意識を持つことが、お母さんの気持ちが楽になる方法ではないかと思っています。自分が選んだ実験をしている最中なのだと思うことで、子どもの行動に振り回さているのではなく、自分で自分の行動の主導権をもつことができるようになるのです。実験の成功はお母さんの思い通りに子どもが動くようになることではないのです。

 また、実験を重ねるごとに確実に経験豊かな「お母さん力(りょく)」があがります。子育てをしていれば様々な発達の段階でいろいろなことが起こるでしょう。そんな時に何が起きてもこのようなかかわり方ができる自分でいることに自信がもて、先々を心配して怖れや不安からの行動をしなくてすみます。子育てに喜びを感じづらい人は、子どもや自分の「できていない」と感じるところに意識をむけ、怖れや不安を感じ、安心を得るための方法を探し続け、受け入れたくないところに蓋をしようとします。
 これからは愛からの選択をしてみませんか?お母さんだからこそ気づいてあげられる本質的な強味を発見して信じてあげるのです。強い信頼関係をベースに成長した子どもはどんなことも乗り越えていける力を安心の中で育(はぐく)むことができ、人生の幸福度をあげます。
 ぜひ我が子の子育て研究室の研究員になってみてください。知ろうとすることでもたらされる恩恵に目をむけてみてください。

まずは観察!でも注意が必要

 実験の手始めは、子どもをよく観ることです。
子どもを観るということは「何に興味をもっているのかな?」などと子どもの心の中の世界を知ろうとすることです。観ることで、それぞれの子どもの本質的な欲求に気がつくことができ、声のかけ方が自然とかわってきます。
 ところで、みなさんは子どもと過ごすときにどんな眼差しでみているでしょうか?私は子どもが小さいころ、「この行動は正しいのか」、「誰かに迷惑をかけるようなことをしていないだろうか」と監視や見張りをしているかのような視線を向けていることを気づかせてもらえる機会がありました。夫に「子どもが私の視線を気にしている。もっと子どもに大らかに接した方がよいのではないか」といわれたのです。かかわる時間が圧倒的に少ない夫に言われたことはくやしく、素直に受け入れづらいものでしたが、その通りでした。これは長年、自分自身に向けていた視線だと気がつきました。何かへましてないか、人に迷惑かけるようなことをしていないか?いつも自分の心のチェックリストに自分の行動チェックをしながら見ているイメージです。そんな視線をむけられていたら誰だって萎縮してしまいますよね。反省したできごとでした。

どんどんアイデアを実践してみよう

 子どもが何を感じたり考えたりしているかを丁寧に観て知ることができたら、子どもの資質や能力を育(はぐく)みやすい環境作りを楽しんでみませんか?私は、子育てをしていく中で、環境をデザインしていくことがとても大切だと感じています。それは一人親だから、収入が少ないから環境が整っていないということではありません。子どもが目的を持ち、積極性や自主性を発揮できる環境をデザインしていくということです。ここでいう「環境」とは子どもたちが出会うすべてと定義します。家族はもちろん、出会う人、過ごす空間、物的なもの、自然現象、社会現象すべてです。私たちも普段の生活の中で自分の意欲を高めるために環境を準備しますよね。子どもたちが気持ちよく生活できるために、ほっとできる場所や自由に遊べる場所、新しいことに挑戦できる環境作りを目指していくとよいのではないかと思っています。
 子どもが笑顔になっているところを想像しながらアイデアを出してみてください。頭の中だけでいろいろ考えているより、実際に書きだしてみることをおすすめします。書き出すことで全体像が見渡せ、取り組むことがすっきりわかりやすくなります。普段、何となく行動していることを可視化していくだけでずいぶんと心が軽くなるものです。

実験の成功はお母さんと子どもの心の安定

 いくつか実験してみたいなということ、浮かびましたでしょうか。ぜひ、いろいろやって見て下さい。大人と子ども共に、日によって体調や気持ちの変化がありますから、「この方法だったら必ず成功」ということはありません。
 毎日、目の前の子どもに気持ちを寄せ、偏見なしに子どもの話すことに目や、耳や、心と使って聞いてみてください。そんな小さなお母さんの行動が目に見えない信頼関係という絆を深め、やがて訪れる反抗期がきても、親も子も信頼関係をベースにやり過ごすことができるのではないかと思っています。
 また、自分の話を批判されず理解してもらえているという安心感を持って育った子どもたちは、言い訳をしたり駆け引きをしたりするのではなく、子ども自身が自分をふり返り、自ら解決策を考える機会をもてるようになると信じています。
 この章の最後になりましたが、私の子どもたちが通っていた園長先生がよくおっしゃっていた言葉を記しておきたいと思います。行事のときなどにカメラで我が子をとることに夢中になっている保護者に向けて
「カメラのレンズを通してではなく、どうぞ、お子さんを心の目で見てやきつけて下さい」
この言葉は卒園してからもずっと私の心に残っています。

お母さんの「当たり前」が通じないことを喜んでみよう

ここまでご紹介してきた内容の中で、ご自分の育児に当てはめることができそうな行動をいくつかイメージができましたでしょうか。
 いろいろな切り口の育児情報を得ることで、新たな気持ちでまた今日も頑張ってみようというモチベーションにもつながりますよね。育児ってそんな小さな行動の積み重ねだと思います。
しかし、「頭では分かったけれども、いざやろうとするとできないです。やっぱり私は育児に向かないのでしょうか」と嘆く声も聞こえてきます。子育ての情報を聞けば聞くほど、できなくて苦しくなってくる。そんな時もあるのではないでしょうか。私はよくありました。
 なぜ、そう感じてしまうのでしょうか。その苦しさから抜け出すにはどうしたらよいのでしょうか。
それは、自分を縛りつけている、当たり前だと思っている「思い込み」を見直すことです。
みなさんは次のような言葉、どのくらい使っていますか?

✔〇〇するべきでしょ。
✔〇〇するのは、おかしいでしょ。
✔〇〇なんてありえない。

 日々の生活の中で、子どもにだけでなく旦那さんやご両親、お友達に対してこのように感じることって意外と多いのではないでしょうか。
もし、育児が楽しく思えず、笑顔が減ってしまっている自分が嫌だなと感じたなら、お母さん自身の今までの生き方を振り返ってみる機会だと思います。実は、子どもの行動がお母さんをイライラさせているのではなくて、お母さん自身の思い込みが自分の自由を奪い、苦しくしているのだと気づけると思います。

イライラはどこからやってくるのかを知ろう

イライラしている時って自分がとっても苦しいですよね。「子どもや夫にイライラさせられる」なんていう言葉も、お母さんたちとのかかわりの中でよく聞きます。
そもそも、このイライラってどこからやってくるのでしょうか。
みなさんはこの「イライラ」という怒りの感情に、もうひとつの感情が隠れていることをご存じでしょうか。
心理学者のアドラーは人が怒りの感情を持つのは4つの目的を果たそうとするためであると言っています。

① 相手を自分の意のままに動かしたい。
② 主導権を握りたい。
③ 自分の権利や立場を守りたい。
④ 正しいことを教えたい。

これらの気持ちを満足させるために「怒り」として表現されるのですが、「怒り」の感情にたどり着く前には「心配・寂しさ・悲しみ。苦しみ」などがあります。
例えば、楽しみにしていた約束が、相手の都合で一方的にキャンセルになってしまった時、自分の存在を軽んじられたと寂しさを感じ、怒りに変換してしまうなどです。

自分の「当たり前」が自分を苦しめていることに気がつくだけで楽になる

 人は今まで見たり聞いたり感じたことのすべてが、私たちの脳の中で情報となり蓄積され整理されて、それをもとに行動や思考が形成されていきます。そしてたくさんの「思い込み」ができてきます。思い込みには「役に立つ思い込み」と「役に立たない思い込み」があります。
「役に立つ思い込み」=自分を守ってくれ、人生の支えとなるもの
「役に立たない思い込み」=自分を制限してしまうもの

たとえば次のような場面があったとします。
公園で子どもが、アリの行列をじっと眺めています。そこへお友達が「一緒にブランコで遊ぼう」とやってきました。でも、アリの行列に夢中になっている子どもは、このアリたちがどこにいくのかが気になって動こうとしません。
こんな時、お母さんたちはどんな思いがとっさに浮かぶでしょか?
「お友達は大切だからお友達を優先するべき」「自分の都合を優先していたらお友達に嫌われちゃう」という思い込みを持っているお母さんは、子どもに「〇〇くんが遊ぼうって誘ってくれているのだから一緒に遊びなさい」という言葉をかけ、目の前の子どもがその通りの行動をしていなかったら、「この子はお友達を遊べない子なのではないか?」「この行動を直さなければ、将来、仲間はずれにされてしまうのではないか?」などと不安がわいてくるのではないでしょうか。不安から「なんで一緒に遊ばないの!」と声を荒げているお母さんを公園でみかけたこともあります。
 一方で、「子どもは自分の好奇心を満たしている。自分がお友達とかかわりたいと思えば自分で、どうしたらよいか考えていける力を持っている」と思うお母さんであれば、子どもへの眼差しは自然と優しくなり、声かけもかわってくるはずです。

まずはお母さんが多様性を学ぼう

子どもが多様性を尊重できるように育つには、まずはお母さんが多様性を学ぶ必要があります。自分の「当たり前」の外の世界に触れ、自分の思い込みに気がつき、成長していくことが大切だと思っています。人は社会的な動物ですから、受け入れられることが大切です。多様性が許されていない場所では人が自分らしく生きることを怖れ、自信を持って思うままの選択などできないのではないでしょうか。
 自分の正義をふりかざして、子どもの想いをつぶしていませんか?身近な人には甘えもあり、無意識に自分の「当たり前」を押しつけてしまっているものです。多様性を考えるときに役立つのは「違いを面白がる」ことだと思います。まずは言葉から変えてみませんか?
「〇〇ちゃんはこう思って、〇〇ちゃんはこう思うのだって。お母さんはそんな風に全然思いつかなかったから面白いよね~」
私はこの言葉を意識的に使っているうちに少しずつ変化を感じていきました。多様性を尊重する子どもに育てたければ、まずは自分が多様性を認める。多様性を認められた子どもだからこそ、人の多様性を認められるようになるのです。逆に言えば、多様性を認められていない子どもは、多様性を尊重する必要性を感じないのです。

お母さんが自分の「当たり前」を手放した先にある幸せ

 思い込みって無意識の部分なので、自分自身では気付きにくいものです。ただ、怒りがわいた時に、感情を相手にぶつけるのではなく、自分自身のどの思い込みがこのイライラなどの感情を作っているのかに意識をむけてみてください。そんな習慣をつけていくことでカッとなって手を出したり、暴言をはいたりすることがコントロールできるようになります。ネガティブな感情が出てきたら、怒りをぶつけるのではなく、自分自身でその感情をそっと「よしよし」と抱きしめてあげて下さいね。どんな思い込みも自分自身を今まで守ってくれていた思い込みです。そしてもうこの思い込みは必要ないなと感じたら手放して下さい。
前章の実験の時にも述べましたが、1回やってうまくいかなかったではないのです。何度も何度も繰り返して習慣化していくのです。お母さんも子どもと一緒に成長していかなければなりません。自分の思い込みに気づいて手放した先には

✔気持ちが楽になります。
✔自分自身や相手と信頼関係が構築されます。
✔多様性を受け入れることで俯瞰しやすくなる。

自分自身を自由に表現しながら、子育てを笑顔でしている未来の自分に出会えるはずです。

地域の資源を利用してみよう

 みなさんは、ご自分が子育てをしている地域の情報はどのくらいご存じでしょうか。仕事中心の生活をしていると、地域の情報にはあまり関心が向かないのではないかと思います。子どもを出産後、保健師さんの新生児訪問の時などで地域にある育児支援サービスの説明を受け、場所を調べたりしながら、地域への興味を少しずつ広げていった方も多いのではないでしょうか。
 育児書では一般的な発達段階に合わせた有益な育児情報は得られますが、地域の情報ってなかなか入ってきませんよね。しかし意識してみると、地域にはたくさんの育児支援サービスがあるのです。遠くに探しにいかなくても身近なところに頼れるサービスがあります。ぜひ、自分が必要としている育児支援サービスを利用してみてください。なぜかといえば、昔とは違った面で、現代では子育ての精神的負担が増しているからです。

なぜ今、自治体の子育て支援サービスが充実してきているのか

 少子化、子どもの貧困の増加、核家族の増加、待機児童の増加等の言葉は、みなさんも日常よく耳にし、大きな問題になっていることはご存じだと思います。
 かつては、子どもは地域の人々に育てられ、成長、発達してきました。現在は少子化により、地域で同年齢や異年齢の子どもが少なくなったことで遊ぶ仲間がいなくなり、勉強やお稽古事等で遊ぶ時間がなくなり、地域の開発、都市化により遊ぶ空間が少なくなり、地域での子どもの発達の環境が少なくなっています。
 また、地域に連携の希薄化の傾向から地域の行事等も減少し、地域社会の子どもの発達を支援する機能が失われつつあります。このことから、家庭で行わなければなない育児項目が急増し、頭も心も体も、親が「意識的に」育てていかなければならないという負担が増加しています。
 これらのことを完ぺきにこなそうと頑張れば頑張るほど、お母さんたちの精神的負担は大きくなり笑顔が遠のくばかりか、虐待という行為にまでつながってしまうのです。
 現在ではこのような状況を改善するために、各自治体が子育て世帯を応援するサポート体制を充実させようと、様々なサポート体制をつくっています。各自治体のホームページからどんな育児支援サービスがあるのか調べてみて下さい。最初の一歩を踏み出して、自分の必要とする制度や場所、人につながってみてください。

どんな育児支援サービスがあるのかを知ろう

 では具体的にどのような育児支援サービスがあるのでしょうか。自治体によって名称や支援のサービス内容は異なりますが、主なものをあげてみます。

□子ども家庭支援センター(子育て支援センター)
各市町村が運営する機関です。子育てをサポートするさまざまな情報が集まっています。自治体によって異なりますが、臨床心理士、保健師、助産師、看護師、保育士、社会福祉士など専門の職員がワンストップでサポートしていける体制を整えています。育児相談、発達相談、健康相談、一時預かり等の相談から、遊び場の開放、ママサークル、子育て講座の開催、母子手帳の交付等、多数の子育て支援サポートを行っています。

□保健センター
各市町村が運営する機関です。地域の健康に携わる機関で保健師さんが相談にのってくれます。3~4ヶ月検診、6~7ヶ月検診、1歳検診、歯科検診等、地域が行う赤ちゃんの健康診断を保健センターで実施しています。

□訪問育児サポート
各自治体が運営する機関です。名称は自治体によって様々です。産前産後の育児や家事に支援が必要な家庭にヘルパー派遣して、子どもの世話や家事支援を行う子育て支援サービスになります。

□保育所の一時保育事業
保育所が行っている一時保育事業です。仕事や親の通院、上の子の学校行事やリフレッシュなどを理由に、利用できる事業です。各自治体の保育コンシェルジェやホームページ、または直接、保育所に問い合わせて空き情報や利用金額を確認することができます。

□児童発達支援
障害児通所支援の一つで小学校就学前の障害のある子どもが主に通い、支援を受けるための施設になります。児童福祉法改正で定められた支援で、日常生活の自立支援や機能訓練を行ったり、保育所や幼稚園の様に学びや遊びを提供したりといった障害児への支援施設です。
 
□児童館
各市町村が運営する機関です。子育て中の親子や、地域の子どもたちが自由に遊び、過ごすことができる場所です。ママサークル等の情報や開催等、行政と身近な民間の子育て情報が一つなったものを得ることができます。遊び場やサークルを通して同年代の子どもを育てるお母さんたちと繋がりやすい場所でもあります。児童館は18歳までの児童が利用することができます。

感謝の気持ちはお母さんを笑顔にできる最強の武器

 こちらで例にあげた育児支援サービス内容は主に乳幼児向けの内容になりましたが、子育ての悩みは小学生、中学生、高校生になってもつきないものです。頑張るお母さんたちを助けたいと手をさしのべている人たちは、たくさんいます。この他にも探してみると地域の育児サポート情報はたくさんあります。時には不要なアドバイスと煩わしく感じる時もあるかもしれません。そんな時は、その人なりの手の差し伸べかたなのだなと気持ちだけ受け取って感謝して、自分がその時にやってみたいと思うことを選択していけばよいのだと思います。
 子どもは将来、大きくなって社会を作っていく一員となります。親は社会の大切な宝を一時的に預かって育てているのです。すべて一人で完璧にする必要はありません、社会の力を借りて育てていけばいいのです。まずは気軽な気持ちで、相談してみてください。話すことで、自分が何に困っているのか、今、何を必要としているのかがみえてくると思います。多様な選択肢の中から、みなさん自身がまわりからの愛をたくさん受け取って、自分らしい育児を楽しんでみてください。たくさんの人とかかわることで、今までにみたことのない豊かな世界が広がります。
 目的は未来を生きる子どもの力を育(はぐく)むことです。イライラしてきたら子どもにぶつけるのではなく、自分が何にイライラしているのかを一呼吸おいて考え、本来の子育ての目的を思い出して、適切なかかわりを選択していく。そのためには、お母さん自身が気持ちのゆとりをもたないといけません。周りの手をたくさん借りて、感謝しながら育児をしていけばよいのだと思います。お母さん自身が、自分で自分を笑顔にできる方法を選択してみてください。子どもたちはどんな高価なプレゼントよりも、日々のお母さんの笑顔が一番欲しいのです。お母さんが笑顔でいるという安心・安全な環境の中で、自分たちの強味を見つけ、表現できるようになっていくのです。
 かつての私のように毎日、目先の事象や情報に振り回され、頑張りすぎ、わかっているのに適切なかかわり方ができない、そんな自分に毎日罪悪感をかかえているお母さんの気持ちが少しでも楽になって欲しいと願っています。幸せな親子が増えことを願って。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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